コラム

モノ消費からコト消費へ 地方にも1兆円超えのインバウンド効果

作成者: shuttotranslation-support|2019年11月25日(月)

モノ消費からコト消費へ インバウンドによる経済効果は大都市のみならず地方にも波及

2019年も訪日外国人旅行者数・消費額ともに過去最高を更新するペースで推移していますが(第4回参照)、近年その訪問先として、“ゴールデンルート”と呼ばれる東京・名古屋・大阪という三大都市圏以外の地方が増加しています。政府発表の観光白書(令和元年版)によると、三大都市圏以外の地方を訪問する外国人観光客は、三大都市圏のみを訪問する外国人観光客の1.4倍に増えています。

訪問先(都市 / 地方)別 訪日外客数の推移
出典・参考:国土交通省 観光庁
「『平成30年度観光の状況』及び『令和元年度観光施策』(観光白書)」

地方部を訪問する訪日外客数は、2018年には
三大都市圏のみを訪問する訪日外客数の1.4倍となった。

その背景として、訪日外国人旅行者の関心が「モノ消費」から「コト消費」へと移っていることが考えられています。

  • モノ消費とは?・・・商品・サービスを所有する価値を重視する消費行動
  • コト消費とは?・・・商品・サービスを体験する価値を重視する消費行動

インバウンドで「コト消費」の対象となる商品やサービスは「体験型観光コンテンツ」と呼ばれます。近隣の中国・韓国・台湾・香港からの旅行者がリピーター化したり、遠方の欧米豪からの旅行者が長期滞在したりする中で、より多様かつ日本ならではの体験がしたいというニーズが高まり、地域性の高い「体験型観光コンテンツ」が求められるようになっていると考えられます。

実際に地方での外国人観光客の消費額も年々拡大し、2018年には1兆円を超えました。「コト消費」によって、インバウンドの経済効果は大都市圏のみならず地方にも波及し、各地の地域経済に貢献していると言えるでしょう。

地方部における訪日外国人旅行消費額およびシェア
出典・参考:国土交通省 観光庁
「『平成30年度観光の状況』及び『令和元年度観光施策』(観光白書)」

訪日外国人旅行者による「コト消費」の経済効果と、多様な「体験型観光コンテンツ」事例

「コト消費」では、特にその地域ならではの体験ができる「体験型観光コンテンツ」が消費額全体を押し上げています。こうした「体験型観光コンテンツ」は、必ずしも伝統文化とは限りません。

その一例として、観光白書ではスキー・スノーボードが取り上げられています。スキー・スノーボードの場合、パウダースノーなど雪質の良さ、コースバリエーション、やナイトスキーなどインフラの良さ、料金プランの豊富さ、アクセスの利便性の高さなどが評価されているのです。

調査によると、実際にスキー・スノーボードを体験した訪日客の一人当たり旅行支出額が22.5万円であるのに対して、体験していない場合は15.2万円にとどまっています。この差額である7.3万円に、スキー・スノーボードを体験した訪日客数88.0万人を掛け合わせて試算すると、スキー・スノーボード体験による経済効果は約650億円にのぼります。

スキー・スノボ体験あり消費額 22.5万円 - 体験なし消費額 15.2万円 = 差額 7.3万円
差額 7.3万円 × 体験あり人数 88.0万人 = 経済効果 642.4億円

こうした「体験型観光コンテンツ」としては、スキー・スノーボード以外にもゴルフやマリンスポーツなどのスポーツ体験、自然体験、農漁村体験など、各地で多様な取り組みがなされ、成果を上げています。

主な「コト消費」の体験有無別 1 人当たり旅行支出
出典・参考:国土交通省 観光庁
「『平成30年度観光の状況』及び『令和元年度観光施策』(観光白書)」

今年の観光白書でも各地の多様な具体例が紹介されています。

  • 自然・リゾート・スポーツ・エンターテインメント体験
    ・沖縄でのリゾートウェディング
    ・サイクルツーリズム(瀬戸内しまなみ海道)
    ・映画やドラマのロケツーリズム(千葉県いすみ市)
    ・首都圏外郭放水路でのインフラツーリズム(埼玉県春日部市)
  • 日本の歴史・伝統文化体験
    ・伊勢志摩での海女小屋体験
    ・高野山での宿坊体験
    ・徳島県にし阿波エリアの伝統文化体験プログラム開発
    ・篠山城下町における古民家活用
    ・文化・芸術の活用(栃木県 日光東照宮・宝物館)

日本は「コト消費」不足 「言葉の壁」を取り除くだけでも魅力的な「体験型観光コンテンツ」に

観光白書では多様な「体験型観光コンテンツ」が紹介されていますが、観光庁の別の調査によると、日本は他の国・地域と比べて外国人旅行者による「コト消費」の総額が低いという結果が出ています。訪日外国人旅行者による消費額のうち「コト消費」にあたる娯楽サービス費が占める割合と単価は、他のOECD加盟国と比較して低くなっています。諸外国での海外旅行者の消費総額に占める娯楽サービス費の割合は、日本での3倍以上というデータもあるほどです。

日本とそれ以外の国・地域によるコト消費の割合の比較
出典・参考:国土交通省 観光庁
「体験型観光コンテンツ市場の概観
世界のコト消費と海外旅行者の意識・実態の調査結果」

逆に言えば、そのぶん日本にはインバウンドの「コト消費」で成長する余地がまだまだあると考えることができます。

また、訪日外国人旅行者の訪問先は年々地方へと広がる傾向にあり、観光消費が地域経済にもたらす影響も大きくなってきています。その反面、インバウンドの流入は地域によってばらつきがあり、効果が及ばない地域も数多く存在しています。これも逆に、インバウンドの「コト消費」で大きく成長できそうな地域が多いと考えることができるでしょう。

つまり、日本には、地方の魅力を発信し、訪日外国人旅行者に「コト消費」として楽しんでもらえるような「体験型観光コンテンツ」がまだまだ必要とされているのです。

既存の商品・サービスや観光施設でも、外国人にも理解できるように翻訳・多言語化すれば「体験型観光コンテンツ」にもなり得ます。まずは翻訳・多言語化等によって外国人旅行者をうまく集客し、お客様として取り込んでいくことが重要になってきます。この絶好のビジネスチャンスをつかみ、機会損失を防ぐためにも、インバウンド対応はあらゆる事業者にとって不可欠だと言えるでしょう。

 

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